一颯が捜査一課に移動してきて早数週間。
仕事に慣れつつあり、血生臭いことにも慣れつつある。
バディである汐里ともそれなり上手くやっており、椎名や赤星達他の捜査一課の面々とも上手くやっていた。





「意味が分からん!」






そんなある日。
汐里の怒鳴り声が捜査一課のフロアに響き渡る。
昼時だからか、今フロアにいるのは一颯と椎名、赤星のみで皆昼飯を食べに行くやら捜査やらで不在だ。
ちなみに一颯と椎名はコンビニで買ったおにぎりやサンドイッチを、赤星は親の手作り弁当を持ってきている。






一颯は汐里が怒鳴りながらフロアに入ってきたものだから、自分が何かしたのかとびくりと肩を揺らす。
だが、彼女が怒鳴っているのはスマートフォンにだった。
彼女をあれだけ怒らせる電話の相手とは誰なのだろうか?






気なるが、聞けない。
聞いたらきっととばっちりがくる。
最近怒られることが少なくなってきているのに、とばっちりとは言え怒られるのはごめんだった。
一颯は黙って、もすもすとミックスサンドを頬張る。






「来月竜希(たつき)朝陽(あさひ)の運動会って言ってたよね!?私もどうにか休み取るんだからお兄ちゃんも取ってくれないと困るんだけど!は?宙斗(ひろと)がいる?弟達の運動会とゴルフどっちが大事!?」






どうやら、電話の相手は兄らしい。
しかし、電話の内容は兄妹というよりカップルみたいだ。
よくある、『あたしと仕事どっちが大事!?』が決め台詞のカップルの喧嘩だ。





「あー、運動会かー。あっちは忙しいだろうし、休み取るの大変じゃないのか?」






「ですね。あっちの忙しさはこっちとは違う忙しさですもんね」






「あの、京さんのお兄さんって何の仕事してるんですか?あと、あっちってどっちですか?」






一颯は口の中身をごっくんと飲み込んでから椎名と赤星に問いかける。
あっちとか言われても分からない。
ゴルフをして、休みが取りづらい多忙な所とは何処だろうか。