「お手柄だったな。浅川」
署の屋上で日向ぼっこをしていた一颯の下に、缶コーヒーを二本手にした汐里がやって来た。
汐里はブラックとカフェオレを一颯の前に差し出す。
どちらかを選べと言う意味らしい。
一颯はどちらを選ぶべきか汐里の顔を見ると、彼女はカフェオレを差し出してきた。
「私はカフェオレは飲まない。お前に買ってきた」
「ありがとうございます。俺、恥ずかしながらブラックコーヒー飲めなくて」
「だろうな。見るからにお前は甘党そうだ」
汐里は屋上に置かれたベンチに座ると、缶コーヒーを口にする。
一颯も「ご馳走さまです。頂きます」と汐里に頭を下げてからカフェオレを飲んだ。
コーヒーのほろ苦い香りとミルクの甘さが口に広がった。
「浅川、何で香山と原田が恋人同士だったと気付いた?そんな素振りを見せていたならぺーぺーのお前ではなく、ベテランの刑事が気付いたはずだ」
「ぺーぺー……。いや、半分思い付きです。最初はやっぱり俺も男女の痴情の縺れだと思いましたが、何か違う気がして。でも、思い付きでも口にしてみるものですね」
「……そうだな」
ナハハ、と笑う一颯に汐里は呆れ顔だ。
だが、汐里の顔は何処か浮かない。
一颯は内心怖いと思いつつも思い切って、彼女に問いかけた。
「どうかしたんですか?」
「……彼女達が罪を犯す前に止められらる方法は無かったのかと思ってな」
汐里は空を見上げ、太陽が眩しいのか目を細める。
普通の男女の恋愛をする人物からすれば、彼女達の気持ちは分からないかもしれない。
だが、彼女達の恋愛も普通の恋愛と変わらない。
それを世の中が、周りが受け入れる日は遠くないはずなのに今ではない。
「止められるのが一番良いのかもしれませんが、無理でしょうね」
「は?」
「ド、ドスのきいた声は止めてください!怖い!と、止められるなら警察は存在しない。でも、それを捕まえるのが俺達警察の仕事。誰も怯えず暮らせるように守ってるのも警察……って貴女のお父さん、京刑事から子供の頃に教えて貰いました」
一颯が警察官を志したのもこの言葉が大きく影響している。
悪を裁く正義のヒーローのようで憧れた。
しかし、幼い一颯からしてみれば、警察官がヒーローというよりは幼い自分を守ってくれた汐里の父親こそがヒーローだった。