「あくまで自分の憶測の範囲ですが、恋人同士だったのは香山と原田だと思うんです」
「女同士で?」
「女同士、男同士の同性愛は今は特に珍しくありません。ですが、まだまだ受け入れられていないのが実状です。その実状こそが今回の事件を引き起こしたのではないかと自分は考えました」
「それで被害者を殺害した動機は?」
「これも憶測に過ぎませんが、被害者に二人は脅されていたのでは無いかと。例えば、同性愛を周りに言い触らすとか。さっきも言った通り、同性愛は珍しくはないことですが、受け入れられない場合が多い。それを周りに言われてしまったら……」
人は人と違うものを受け入れることに時間を必要とする。
最近ではLGBTと呼ばれる性的少数者も漸く受け入れられつつあるが、海外に比べてこの国はまだ偏見がある。
一颯自身、恋愛対象が同性だっただけで恋愛という形には変わりはないと考えている。
だが、皆が皆そんな考えを持っている訳ではないから悩ましい。
「被害者は恐らく香山に一方的に好意を抱いていた。でも、香山には原田という同性の恋人がいる。だから――」
「そこまでで良いぞ、浅川」
指揮官が一颯の憶測をそこで止める。
周りの捜査員達は険しい顔をしていた。
やはり、捜査一課に来たばかりの新人の憶測など聞くに堪えなかったのだろうか……。
そう思い沈んでいると、指揮官が声を張る。
「香山清良と原田菜々に任意同行だ。毒の入手経路は取り調べの時に聞けば良い」
はっと顔を上げれば、汐里が一颯の肩を叩く。
そして、他の捜査員達と共に歩き出す。
一颯も慌ててその後を追いかけた。
その後。
香山清良と原田菜々に任意同行を求め再度聴取を行ったところ、双方が石川猛殺害の容疑を認めた。
動機は一颯の読み通り。
香山と原田の恋愛関係を香山に一方的に好意を持っていた石川が良しとせず、社内に関係を言い触らすと脅した。
香山と原田は言い触らされることを恐れ、香山は石川と付き合うことにした。
石川は高嶺の花とされていた香山と付き合えたことで満足したのか、原田を含め他の女にも手を出し始めた。
それなのに、石川は決して香山と別れることなく、結婚すると言い出した。
それが香山と原田双方には信じられず、許せなかった。
―――だから、殺害したのだ。