翌日。
一颯は汐里と他の同僚達と共に昨夜居合わせた殺人事件の捜査をしていた。
被害者は石川猛(いしかわ たける)(32)。
市内のIT関連企業に勤める会社員だ。
現場に居合わせたのは二人の女。
香山清良(かやま せいら)(28)と原田菜々(はらだ なな)(25)。
二人とも被害者の同僚で、香山は被害者の婚約者だった。




被害者の死因は司法解剖の結果、服毒による中毒死。
使われた毒はテトロドトキシン。
フグの毒として有名なもので、致死率が高い。
テトロドトキシンは摂食後から二十分から数時間の間に症状が出る。





「被害者が訪れていた居酒屋ではフグを取り扱っておらず、同棲し行動を共にしていた香山清良の証言では前日の夕食、当日の朝食や昼食にフグを取り扱った料理を食べてないとのことでした」





「……つまり、摂取経路不明か」







テトロドトキシンという猛毒を持つフグの取り扱いは専門の知識と免許が無いと扱えない。
それに加え、処理したフグの有毒部位は適切に処理しなくてはならない。
少なくとも一般の人間が安易に扱えるものではないのだ。






「フグ料理を食べていないなら意図的に誰かが普段の食事に混入させた可能性を考えるべきかと」






「そうだな。あと、テトロドトキシンをフグ以外持つ生物は?」






「ヒョウモンダコにツムキハゼ等ですかね。いずれも身に猛毒があり、食用には適していませんね」





「そうか。なら、フグ料理を提供する店に内臓の盗難が無かったか聞き込みだな」






一颯が話に入ることなく、汐里達だけで話がまとまってしまった。
汐里を始めとした捜査一課の刑事は頭の回転が早い。
一つの疑問に二つ以上の解答が生まれ、疑わしいものは疑いが晴れるまで疑う。
そうしなければ、事件は解決しない。





「浅川、行くよ。私達は被害者と一緒にいた二人についての聞き込み」




「は、はい!」





一颯は汐里と共に署を出た。
そして、犯人として疑われている香山清良と原田菜々の周囲への聞き込みを行った。
その結果。
どちらも犯人になりうる話が聞けたのだった。