「……女の人って串にかぶり付かないで、箸で外して食べるイメージがあったんですけど」
「浅川、京をそこらのおしゃれなカフェで飯食ってるような女子と同じにするな。こいつはオッサンだ」
「まあ、今日は酒飲んでないからまだましだけどな」
目の前の椎名と赤星が笑い疲れたのか、ヒィヒィ言いながら涙を拭っている。
素面でこれならば、酒を飲んでいたらどうなるんだ?
そんな疑問が一颯の中で過るが、口には出さない。
何でだか、近々見れる気がしたからだ。
――その時。
「キャアァア!」
女の悲鳴が店内に響き渡る。
それにいち早く反応するのは仕事病だろう。
一颯達は靴も穿かずに、悲鳴がした方へと駆け出していた。
悲鳴が聞こえたのは一颯達のいる個室の二つ隣の個室。
「い、石川君!」
個室の襖は開け放たれており、中では三人の男女がいて、男が倒れていた。
男は目を開けたまま口から泡を吐き、苦しんだのか喉を押さえている。
そんな男を一人の女が身体を揺すっていた。
「タケ君!ねぇ!タケ君!」
「ちょっと失礼しますね」
一颯を除いた捜査一課の面々が部屋の中に入り、男に近付く。
「ちょっと!貴方がたは――」
「私達は警察です。この男性に何が?」
汐里はさっきのふざけた雰囲気が何だったかのように凛としていた。
他の同僚達もだ。
酒を飲んでいたと思えぬ程凛としている。
――刑事の顔だ。
「お酒を飲んでいたら、急に苦しみ出して……」
「急に……。浅川、警察と救急車を――浅川?」
汐里は一颯に声をかけるが、彼の姿はない。
部屋から顔を出して姿を探せば、少し離れた植木の影に一颯の姿を見つけた。
植木を盾にするかのように、じっとこちらを見つめる姿は悪さをして怒る飼い主の様子を見る犬のようだ。
「お前、何でそこにいる?」
「じ、実は俺、こういう現場を生で見るの初めてで……」
汐里はポカンと呆気を取られたような顔をする。
が、直後、歯を食い縛るのが見えた。
そして――。
「捜査一課に来た刑事が殺人現場を見られないなんて許されると思っているのか!?」
汐里の怒号と一颯の悲鳴と共に、パトカーと救急車のサイレンの音が響き渡った――。