「あの酔っ払い、本当に投げ飛ばしてやろうかと思った」





開け放たれたままの襖から不機嫌な汐里が現れる。
汐里曰く、トイレを終えて戻ろうとしていたらあの男に酷く絡まれてらしい。
早速他人に迷惑をかけていたようだ。
しかも、迷惑をかけていたのは現役の警察官に対して。
最悪逮捕されかねない状況だったのにも関わらず、あの男は……。
能天気なものだ。





「『俺ねぇー結婚するんだぁー!奥さん、めっちゃ可愛いのー!あ、君も可愛いねー!俺の奥さんには負けるけどー』」






汐里は部屋に踏み込んでくると、ドカリと一颯の隣に座る。
そして、一颯の肩に腕を回すなり、急に鼻を伸ばしただらしない顔でそんなことを言い出す。
一颯は呆気に取られるが、他の同僚達は必死に笑いを堪えている。
何が起きているのか、彼にはわからなかった。






「だってさ。アンタの奥さんはどんな人か知らないし、結婚のけの字もない女に惚気んなっての」





汐里は一颯から離れると、メロンソーダをズズズと啜る。
どうやら、さっきの酔っ払いに絡まれたのを再現したらしい。
確かに投げ飛ばしたくなる。
というより、鬱陶しく感じる。






「か、京…嫁入り前の女がその顔は……」





赤星は必死に笑いを堪えているが堪えきれず、とうとう吹き出した。
それを皮切りに、笑いを堪えていた同僚達も吹き出す。
一颯は反応に困った。
汐里がそういう馬鹿げたことをやると思っていなかったから余計に。






「嫁の貰い手いないし。それ以前に仕事が忙しくて出逢いを求めに行けてないし」






「警察官で良いじゃん。てか、京って彼氏いなかったっけ?あの、イケメンの」





「いつの話してるの、赤星?彼とはとっくに自然消滅してるわ!」







汐里はイカげその唐揚げに箸を伸ばし、口に頬張る。
イカげそを飲み込んだと思えば、次は焼き鳥に手を伸ばして串にかぶり付く。
その姿はまさにオッサンだ。