「――で、集まったのは結局これだけね」





その夜。
仕事を終えた一颯は汐里に連れられ、居酒屋に来ていた。
そこは捜査一課の人間もよく来る場所らしく、安くて量が多くて美味いと評判だ。
しかし、歓迎会と言っても集まれたのは片手で足りてしまうほどの人数。
やはり、捜査一課は多忙を極めるようだ。






「仕方ないよ。でも、少しずつだけど、浅川に美味いもの食べさせてやれって皆から預かってきた」





椎名が出したのはジャラジャラと小銭の音がする茶封筒。
ちなみにお札もしっかり入っていて、諭吉が何枚かと英世が何枚か入っていたりする。
ぶっちゃけると、今いる者達がお金を出さずとも飲み食い出来るほどのお金が入っている。





「何か申し訳ないですね……」





「良いんだよ、気にしなくて。で、何飲む?」






「俺、実は飲めないんです。なので、ウーロン茶を」





「そうなの?なら、美味いものたんと食いなよ」





酒が飲めない一颯と明日も仕事の者以外は皆ビールを頼み、各々食べたいものを注文する。
唐揚げにシーザーサラダ、焼き鳥に刺身、エビマヨにピザなどがテーブルに並ぶ。
どれも値段のわりに量が多く、これで美味いとなれば繁盛するだろう。
現に店内は平日なのにも関わらず、賑わっている。





「浅川はさ、何でも刑事になったの?」




酒が進み、顔が赤くなってきている赤星がモグモグとリスのように頬一杯に焼き味噌おにぎりを頬張る一颯に問う。
一颯は口の中の物を飲み込んでからそれに答える。





「俺、昔誘拐されたことがあって、それで助けてくれた刑事の人がかっこよくて……」





「え、誘拐されたことあるとか浅川ってボンボン?」





椎名は酔いが回っているのか、普段使わなそうな言葉を口にする。
そのボンボンという単語に、一颯は内心どきりとする。
己の正体は決して周りには知られたくなかった。
知られてしまえば、自分自身の実力というものが失くなってしまう。
そうなるのが嫌で、《浅川》一颯を名乗っているのだ。