「し、失礼しました!本日より捜査一課に異動してきた浅川一颯と申します!」
一颯は立ち上がり、背筋を伸ばして汐里に向かって頭を下げる。
身長は自分よりも小さいはずなのに、何故か汐里からは見下ろされるような威圧感が感じられた。
隈が色濃く縁取られたつり目が余計にそう感じさせるのかもしれない。
「ああ、アンタが相棒になった新人君か。まあ、とりあえず宜しく」
汐里は一颯にあまり興味が無いのか横を通りすぎ、自分のデスクに座った。
そして、三段ある引き出しの一番下を開ける。
そこにはデスクの上に置いてある栄養ドリンクと同じものが未開封で収められていた。
彼女はそこから一本取ると、一気にそれを飲み干す。
「美味しくない」
「なら、飲まなければ良いんじゃないのか?」
「飲まないとやってられない」
「酒みたいに言うな。お前は本当に俺と同い年か?オッサンの間違いじゃないのか?」
顔をしかめつつも飲み干した汐里は赤星と雑談を交わしながら、溜まった空き瓶を違う引き出しから取り出したビニール袋にまとめる。
どうやら、二人は同期らしい。
美人なのに中身がオッサンの汐里に童顔なのに言動は男らしい赤星。
なかなか濃い同期だ。
「まあまあ、その辺にしておけ。京、報告書は俺と赤星でやってるから浅川に色々教えてやれ。んで、夜は空いてる人集めて浅川の歓迎会だ」
「え?」
椎名の言葉に、周りも浮き足立つ。
浮き足立っているのは夜空いている者達らしく、狡い!とか俺も行きたい!とか言っている者達は空いていないのだろう。
多忙な捜査一課だ、何かしらの仕事はあるだろうし、事件は常に起きる可能性がある。
それに、歓迎会など開いてもらえるとは思ってもいなかった。
「よっしゃ!やるぞ!椎名さん、何処でやるんですか?俺探しますか?」
「赤星、ステイ。店は任せるが、まず仕事だ」
赤星の頭に一瞬耳が、背後にはブンブンと振られる尻尾が見えた気がした。
椎名と赤星の関係はバディというより、飼い主と犬に近い。
赤星の尻尾を振る様は遊ぶのが大好きな小型犬のようにも見えなくもない。
「了解。んじゃ、行こう」
汐里は空き瓶を入れた袋を持つと、スタスタと歩き出す。
「え!?あ、はい!」と戸惑いつつも一颯はその後を追いかけた。
前を歩く彼女から微かに鼻歌のようなものが聞こえる。
どうやら、酒が飲める歓迎会が楽しみのようだ。