「おい、浅川!何笑ってる!?」
「え!?いや、幸せだなーって思って」
「「「は?」」」
汐里に睨まれ本音を言えば、汐里と赤星、椎名に馬鹿を見るような目で見られた。
確かに殺されかけ、怪我をしたというのに幸せを感じるというのはおかしいのかもしれない。
だが、おかしいと思えることも生きているからこそ感じられる。
「……こいつ、殺されかけたのに幸せって言ったぞ?」
「爪が割れて、剥がれてグロッキーなのに幸せって言ったぞ?」
「……頭見てもらうか?」
上から汐里、赤星、椎名だ。
こうしてみると、椎名の言葉が一番失礼な気がする。
一颯は失礼すぎる先輩達に怒るかと思いきや、むしろ笑っている。
そんな彼の様子に汐里達の方が戸惑い、動揺する。
「駄目だ、一回頭の検査してもらおう」
「神室に変な薬とか飲まされたのか?」
「え、ドラッグ?ヤバくないか?」
「俺は至って正常です。ただ、生きていることが嬉しいだけです」
生きているのが当たり前だと思っていた。
だが、捜査一課に異動してきて、一颯の周りでは死が間近に見られるようになった。
誰かを憎み、殺す。
そんな過ちを犯した人々を一颯は此処三ヶ月程で間近で見てきた。
それは生きていることが当たり前ではないことを物語っている。
だからこそ、今生きて笑っていることが嬉しかった。
当たり前がこれ程嬉しく、尊いものだとは知らなかった。
一颯はポカンとする先輩三人をよそに、窓の外を見た。
窓から見る空は眩しいほどに青い。
満天に広がる青があの日見た空に似ていた。
初めて事件の解決に貢献した日に屋上から見た空に。
正義のヒーローに、京太志のような刑事になると宣言した日の空に。
「俺、絶対神室志童を捕まえて償わせます。失われた命のためにも」
一颯の言葉に、汐里達も「当然だ」というように頷いた。
《七つの大罪》に《神室志童》。
この二つが今後世の中にどれだけの影響を及ぼすかは分からない。
それでも、一颯は諦めない。
神室志童に罪を償わせるまでは――。