「何で……」





呼吸が乱れ、肩で息をする。
目の前には頭から血を流し、固く目をつぶっている汐里が横たわっている。
首筋に触れた。
冷たく、脈が感じない。






「何で……解毒剤は飲ませたのに……」






解毒剤を飲ませれば、汐里は助かるはずだ。
それなのに、息をしていない。
まさか、アンプルの中身は解毒剤では無かったのだろうか。
ふと、一颯の肩に手が乗せられる。






「だから、人を信じるなと言ったんだ。僕を信じたから彼女は死んだ」






「それはお前が……」






「僕を信じたのは君だ。君が彼女を殺したんだよ」






耳元で神室が囁く。
その囁きはまさに悪魔で、一颯の心を乱す。
違う、殺したのは神室だ。
神室が彼女を殺したんだ。
一颯はホルスターから拳銃を抜くと、神室に向けた。






「僕を殺すのか?」







銃口を神室の額に押し当てる。
死が目の前にあるというのに、神室は笑っていた。
このまま引き金を引けば、神室は確実に死ぬ。
いや、殺せる。






「良いよ、殺すと良い。でも、僕を殺せば、君は人殺しだ。僕と同じ人殺し」






人殺し、という言葉に一颯は指先が震えた。
神室は殺したいくらい憎い。
だが、人殺しになるのは怖い。
親友は自身のために人を殺し、己自身も殺したというのに一颯は――。






「――君には残念だよ」





耳元でガチャリと引き金が引かれる音がする。
こめかみに鉄の冷たい感触がする。
目の前には神室の冷たい顔。
直後、鼓膜が割れるような音と共に頭蓋に衝撃を感じる。





もう何も聞こえない。
身体から力が抜けて傾いた。
もう何も感じない。
もう何も――。
一颯の見つめる先には先に事切れた汐里がいた。
彼が最期に見たのは彼女の顔だった――。