「宜しくお願い致します」
「宜しく。俺は椎名玲。こっちが赤星絢多|《あかほし けんた》」
「宜しくー」
一颯の斜め向かいに座る眼鏡をかけたインテリ風の男が椎名、その隣に座る子犬系の童顔が赤星だ。
椎名は一颯よりも七つほど年上で、赤星は一颯よりも一つ年上だという。
二人はバディのようで、時折二人で難しげな話をしている。
ふと、一颯は隣の席が気になった。
隣の席には誰かいるのだが、姿は見えない。
書類のファイリングやペンの色合いを見る限りその席にいるのは男ではないのは分かった。
ただ、仮に女だったとして、デスクの上に置かれた空き瓶の量は目を疑う。
全部栄養ドリンクの空き瓶で、何日分なのだろうかと思ってしまう。
「あの、赤星さん。此処の席って?」
「ああ、そこ?そこね、捜査一課の姫の席だよ。んで、君の相棒」
「捜査一課の姫?ああ、聞いたことあります。めっちゃ美人な人だって。え?相棒?」
交番勤務の頃、所轄勤めの友人から聞いたことがあった。
捜査一課にすれ違う人が必ず振り返る程の美人がいる、と。
その人は一颯と同じくノンキャリア組なのだが、頭が切れるという理由で早々に一課に引き抜かれたと聞いたことがあった。
そんな人物が己の相棒?
信じがたい。
「……この栄養ドリンクの空き瓶の量。オッサンの間違いじゃないですよね?」
「「ぶふっ」」
一颯の呟きに椎名と赤星は吹き出した。
彼らだけではない。
後ろの席にいる他の同僚達までもが肩を揺らして笑いを堪えている。
捜査一課はお堅い部署なのかと思っていたのが、そうでもないのだろうか?
等と思っていると、周りが急に静かになった。
「オッサンで悪かったな」
背後から聞こえた女の声。
振り向けば、確かに誰もが振り返る程の美人がいた。
京汐里。
それが捜査一課の姫と呼ばれる彼女の名前だった。
そして、一颯の相棒となる刑事の名前だった。