「うぅ……ん……」
次に一颯が目を覚ました時にいたのは喫茶店ではなかった。
窓のない薄暗い部屋。
一颯は手足を縛られつつも身体を起こして、周りを見渡す。
そして、隣に汐里の姿を見つける。
「京さん!しっかりしてください!」
手足を縛られているから汐里を起こすことも出来ない。
叫んで起こそうとしたが、彼女はピクリとも動かない。
もしや……という不吉な予感が過る。
嫌な汗が背中を伝った。
「安心しなよ、彼女は死んでない。まだね」
神室の声がしてはっと顔を上げれば、神室がドアの傍の壁に寄り掛かっていた。
奴はまだ、と言った。
汐里は生きている。
ただ、これから死ぬ可能性があるということだ。
「お前っ!京さんに何をした!?」
「ちょっとした毒を吸わせた」
「毒?」
「此処に来る間に彼女は目を覚ましてね、暴れる暴れる。だから、頭殴って、毒を吸わせて大人しくさせたんだ」
神室はにこりと笑う。
頭殴って毒を吸わせたなどと平然と言ってのけた挙げ句に笑っているなど普通じゃない。
一颯は神室志童という男は普通でないことを再認識する。
と、同時に汐里の身に起きていることの重大さに気付く。
「毒って何の毒だ!?まさか――」
「《七つの大罪》が作り出した新種のものでね、半日で内臓の機能が失われて死ぬ。解毒剤は僕が持ってる」
神室の手には小さなアンプルがあった。
しかし、それは決して一颯には渡されることはないだろう。
ならば、強制的に奪うべきだった。
だが、一颯は手足を縛られているせいで動けない。
「それを渡せ!さもなくば――」
「芋虫みたいに這いつくばることしか出来ない君に今、何が出来るの?」
一颯は何も言えなかった。
手足を縛るロープを切ろうにもそんな力はないし、ほどいてくれる人もいない。
言葉に詰まる一颯に、神室は楽しげな笑みを浮かべる。
「出来ないよね?じゃあ、二人仲良く此処で死ねばいいよ。あと半日もすれば、此処は毒ガスが充満する」
「!?」
「そこにあるガスボンベには彼女が吸った毒が高濃度で詰められている。あと半日で放出されるようにタイマーがかけられているから早く出ないと死ぬよ」
神室はドアノブに手をかけるとそんな残酷な言葉を一颯に言い残し、出ていった。
挙げ句に、鍵をかけていった上に解毒剤のアンプルを持っていってしまった。