「バレていたのか。僕は滅多に外に出ないから顔バレはしてないはずなのに」





神室は座席の背もたれに両腕を乗せ、優雅に足を組む。
人を見下すような態度がペルソナに似ていた。
いや、神室本人がペルソナなら似ているも何もない。
挑発したような神室の態度に、汐里は至って冷静のように見えた。
だが、目は怒気を帯びている。





「名前を変えずに情報提供者として名乗り出るなんて舐め腐ってる。神室志童、お前が父を殺した犯人だな?」






「っ!?」






一颯は意味が分からなかった。
汐里の父、京太志は今目の前にいる神室志童に殺された?
太志が殺されたのは十年前。
十年前なら神室はきっとまだ十代前半から半ば辺りの年代だ。
少年が連続殺人犯になるはずが――と思ったところで、一颯はその考えを改める。
少年の頃に少女を殺し、服役後に殺された男のことを思い出したからだ。








「父が死ぬ前に追っていたのは連続殺人犯。行動範囲と夜間の犯行時間帯を考え、犯人は学生で塾に通っている可能性を突き止めた。そして、何処の塾に通うかを突き止めることが出来た」






「……それで?」







「犯行は必ず火曜と木曜の22時以降。そこの塾では火曜と木曜が試験日になっていて、大学入試の模擬試験形式で行うため、普段より時間が押す。だから、帰りが遅くなったところで親は心配しない」







「……それで?」







「塾では問題が終了し、終了時間二十分前になれば試験時間に達していなくても退室しても良いと許可を出している。そして、毎回早々に問題を終え、終了時間二十分前になると退室する生徒が一人いた。それがお前だ、神室志童」





汐里は太志が調べていたのかそれとも彼女自身が調べたのか、持ってきていた鞄からばさりと書類を出す。
びっしりと書かれたそれは神室志童には不利益になるものに間違いはない。
だが、神室は顔色一つ変えずに汐里を見つめている。
それが汐里を苛つかせた。






「……何故父を殺した?」






地を這うような低い声だった。
汐里のそんな声を聞いたのは普段起こられまくっている一颯ですら初めてだった。
彼女にとって太志は尊敬する刑事であり、最愛の父親だ。
殺した相手が憎くて堪らないだろう。