ふと、一颯のスマートフォンが鳴り、ディスプレイには汐里の名前が表示されていた。
司馬に頭を下げて、電話に出る。
電話越しに「何処に行った!?」と怒鳴り声を上げる汐里の声が二日酔いの頭によく響く。
一颯はすぐに戻ることを伝え、通話を切った。





「相変わらず元気だな、あの子は。警察官時代の琴子さんを見ているみたいだ」






「元気と言うより狂暴の間違いでは?」





「まあ、そうとも言うな」






司馬は楽しげに笑って、資料室を出ていく。
一颯もその後に続くように出れば、出た先で汐里が仁王立ちで立っていた。
うん、これは元気ではなく、狂暴が的確な表現である。






「行くぞ。ペルソナについての情報を知っていると言う男が現れた。今からそいつに接触する」






「え?信用できるんですか?」





「分からん。だが、手がかりになるなら藁にでもすがる」





車に向かいながら汐里は一颯に説明するが、一颯はいまいち納得と信用がならない。
恐らく汐里も納得も信用もしてない。
だが、情報の少ないペルソナのことを少しでも分かるのならば行くしかない。






「何処まで行くんですか?」






「◯◯にある喫茶店。情報の提供者がそこを指定してきた」






「え。大丈夫なんですか、それ」





「さあな。万が一、何かあったときのために赤星に『半日戻らなかったら怪しめ』って言ってきた」






汐里は抜かりなく《何か》の時のための対策をしていた。
いや、その《何か》が起こる前提で事を進めているのかもしれない。
情報提供者は確実に怪しい。
何故なら、警察は一連の事件に《ペルソナ》が関わっていることを公表していない。
知っているのは捜査関係者と唆されて犯罪を犯した人物。
そして、ペルソナ本人しかいないはずだ。






「……来るのはペルソナ本人でしょうか?」






「さあな」






運転席側に回り込んだ一颯の言葉に、汐里は素っ気なくそう返すだけだった。
汐里は何かを隠している。
普段ポンコツな一颯だが、こういう面では時々勘が鋭いときがある。
まさにそれが今で、彼女が何かを隠しているように感じていた。






だが、聞いてもはぐらかされるだけだ。
そう思い、一颯は何も気付かない振りをして運転席に乗り込んだ。
そして、喫茶店へと車を走らせる。
この時、一颯は汐里が何かを隠していることを聞かなかったことに後々後悔することになる。





聞いていれば、《こんなこと》にはならなかった、と。