「鶴ってさ、生後半年で親と同じくらいの大きさまで成長するんだよね。子供の時間が少ないのって随分損だと思わない?」

「損かどうかはわからないけど、下の資料館にも確かそんなこと書いてあったな。半年で大人になって、そこから長いので更に六十年近く生きるんでしょ?鶴は万年って言葉の由来はそこらへんからきてるのかもしれないね」

「鶏とかだと十年くらいだもんね。飼育委員やってた頃、担任の先生に教えてもらったなぁ」

「あー、メルヘンのことか。独特な先生だったけど、変な知識は持ってたよな、あの人。懐かしいね」

「そうそう!人体模型の前に立って、造形美だっ!て呟いてたの見たときは、さすがにすちょっと引いたけど、今となっては、いい思い出かな?たまに思い出し笑いするし」

「それは、いい思い出では断じて無い。今からでも遅くない。あのおっさんのこと、通報してもいいんじゃないかな…?」

「他にも、子供の頃は色々あったね。骨董品(こっとうひん)鑑定ごっことか、エアバンドで教室ライブごっことか」

「…悪いことは言わない。東京行っても絶対、他人に話すんじゃないよ。きっとそれ、この地に封印しとくべき思い出だから!」

「あはは、そうします。小学校からずっと一緒だったけど、どれもこれもいい思い出。」

「そうだね」

しばらく沈黙し、互いの凄した時間について語り合う。その時間は、駆け巡る走馬灯のように、あっという間で、ゆっくり流れていった。

「このまま、子供のままでいれたらな」

時間に憧れるように、彼女はそっと呟く。

「…僕は、早く大人になりたいけどな。お金さえ手に入れば、東京にだってすぐ…」
意識してしまうと、それ以上、言葉にはできなかった。

後悔が襲う。これは失言だ。
だだをこねる子供のわがままと何ら変わらない。

口を(つぐ)み、ばつの悪そうな表情を浮かべる僕の肩に、彼女の頬が寄り掛かった。

「私たちは人間だから、まだまだ大人になりきれない子供なんだけど、いつか大人になったら今日のこと、懐かしく思いたいね」

ポケットに閉まった手を離し、彼女の手をとる。
(あらが)わず、受け入れてくれた彼女の手は、やはり冷たかった。

いつか、もう少し大人になったら、また会おう

どうせ別れるなら、後腐(あとくさ)れなく、未来のあるお別れをしたい。
だから僕も、そんな前向きな言葉を伝えたかった。

けれど、いつかというのはあまりにも曖昧(あいまい)で残酷で、口に出してしまうと終わることを決めてしまうようなもので、ただただ、大人ぶった子供の僕には、どうしようもないもので、我慢の限界を迎えて目から(あふ)れ出すものは、とても冷たかった。

ケーンケーンと鳴く外野の声が、次第に薄れていく気がした。