「変」の反対は「素敵」。
私は、そこにたどり着いた。
真木くんが素敵かどうか、今の私には判断できることではなかった。ひとつ言うなれば、私よりは確かに素敵な人あるということ。
真木くんは頭が良い。ノートだけが無駄に綺麗な私とは違う。音楽以外の成績だって悪くて4だと思う。4月からの進学先は県内じゃ有名な国公立という噂だ。大学でやりたいことがあるんだろうな。なんとなく自分のレベルにあった私立大学に進学する私は、きっと大学もこんな感じで過ごすのだと思う。変わろうとすらしない自分には、もう慣れた。
「やっぱ面白いよ、佐倉さん」
真木くんが小さく笑う。やわらくて、どこか安心感のある笑みだった。
「真木くん、さっきから何言ってるかわからない」
「俺も、さっきから佐倉さんが頑なに自分をつまらないと言っている意味がわからないよ」
「私は空っぽで、何も秀でた取り柄がない。ずっと親の敷いたレールを渡ってきただけで、人付き合いも下手。真木くんも聞いたことあるんじゃないの?私、笑わないしつまらないから機械って呼ばれてるんだよ」
「つまらない人間って、面白いじゃん」
「だから……っ」
「だから、佐倉さんはそのままでいればいいんじゃない。ニンゲンってそんなに簡単に変わらないし、変われないんだから」
やさしい風が頬を切った。
「変の対義語は正か定。変人と常人って言うでしょ。素敵って…佐倉さんも変だよ」
「私は…、」
「そのままでいいじゃん。自分はつまらないっていう固定概念だけは捨てた方がいいかもしれないけど……そういうのは少しずつ、ね」
真木くんがここにいた理由は知らない。私のことを心配してくれていたのかも、止めようとしていたのかも知らない。そしてそれは、この先もきっと知らないままなのだと思う。
「……真木くんは、変だよ」
「佐倉さんは、素敵だね」
3月1日。一旦、これまでの私をリセットしようと思う。
3月2日。これまでの私を受け入れて、「つまらなくて」「変な」私として生きていこうと思う。
「卒業おめでとう、佐倉さん」
「まだ早いよ」
「じゃあ明日また言うよ」
「……変な人」
「それって、最高の褒め言葉」
グッバイ、ハロー、明日の私。
完.



