「佐倉さんっておもしろいよね」



真木くんが笑った。意味が、よくわからなかった。


「…私が、面白い?」
「面白いよ。ただ鈍感なだけで」
「それはどういう……、」
「興味がないんじゃなくて、自分の気持ちに気づけていないだけだと思う」


ますます分からなくなった。そもそも真木くんがここにいる理由も分かっていないのだ。第2月曜日でも、第3月曜日でもない。真木くんと私は、活動日に一言二言話すだけの仲。それなのに、どうして。



「佐倉さん、才能の塊って感じなのに。頭良いし、字綺麗だし、映画のセンス良いし、ピアノ上手いし」

「……え」

「合唱コンクールの放課後練習の時さ、ソプラノパートの音出ししてたでしょ。練習終わりに少しだけ弾いてたの見たけど、めちゃくちゃ上手いから なんで映画同好会になんか入ってるんだろって思った。中学とか、絶対吹奏楽やってたでしょ」


そういえばそんなこともあったな。ぼんやりと過去を振り返り、真木くんが言っている時のことを思い出す。


夏休み前にあった合唱コンクール。ソプラノ、アルト、テノール……とパートごとに練習をしていた時、音出しをしたことがあった。

ソプラノパートに楽譜をまともに読める人がいなかったから、人助けのつもりでそうしただけ。久しぶりにピアノに触ったから、全体的練習が終わった後に特に深い意味も持たずに 記憶に残るフレーズを弾いてみた。ただ本当に、それだけの話。



面白いなんて、そんな要素はどこにもない。


映画だって、帰宅部に限りなく近い部活を探していたらそこにたどり着いただけだ。真木くんとは必要以上に話さないけれど 一応活動は毎月決まって2回あるし、苦ではなかったから3年間続けた。レンタルショップで なんとなくあらすじとタイトルが気になったものか直感で手に取ったものを借りただけ。

頭が良いのも字が綺麗なのも、別に私じゃなくてもたくさんいる。


「ねえ、佐倉さん」
「なに、真木くん」
「もう1回言うけど、」
「……なに」

「卒業式前日に自殺はさ、流石に縁起悪いと思うよ」



私は何も特別じゃない。何の才能も無い。流れに身を任せて、言われた通りに生きているだけの機械。つまらなくて空っぽな人間。


​──だから、最期くらいは、



「死に方くらい自分で選んでみようかなって、何となく思っただけだよ」