2年前は、もっと無口で不愛想で、ストイックゆえに自分にも他人にも厳しかった。同じチームの仲間と衝突していたのを目撃したこともあり、どちらかというと怖い存在。だから、私も必要最小限の挨拶や会話しかしなかったし、マネージャーとして下手なことをしないように必死だった。
そんな彼が、コーチを引き受けたり、先生と談笑したりしているなんて……。

 部活も片付けも終わった、19時。みんなの忘れ物がないかチェックを終えた私は、最後に部室に鍵をかけ、バス停へとひとりで向かう。
私の使うバス停は、高校の裏手側、学校敷地を囲む生垣が途絶えるところにあった。私の家はちょっと辺鄙なところにあり、バスで45分と遠く、この時間に同じ停留所のバスに乗る部活生はいない。みんな、徒歩か自転車か電車通学だった。
裏門を出てすぐ左に曲がった私は、外灯が等間隔に設置されている歩道をバス停に向かって歩く。高校の裏通りは一車線ずつの広くはない道路で、並木道とまではいかないけれど、桜の木がぽつぽつと続いている道だ。交通量は、多くはない。
屋根付きで、その内側に頼りない照明のついたバス停は、薄暗がりの中にぼんやりと浮き上がって見える。立っているバスの時刻表が、まるで人影みたいだ。
「……あれ?」
いつもなら私ひとりのことが多い、閑散としたバス停。けれど、そのベンチの端に、人が座っているのが見えた。白Tに黒のウィンドブレーカー。それは、さっきまで体育館で一緒だった九条先輩だった。
「おつかれさまです」
 頭を下げてそう言った私に気付いた先輩は、
「……おつかれ……」
 と、ピンとこないような顔をしたあとで、「あぁ」と思い出したかのように頷く。
「マネージャーか」
 パッと気付いてくれなかったことが悲しいのか、ちゃんと思い出してくれたことが嬉しいのか、なんとも複雑な気分だ。私は、空気を悪くしないように、
「そうです」
 と微笑み、ベンチの横にたたずんだ。
バス停の向かいには、小さな公園とマンション、民家がいくつか並んでいる。近くの横断歩道を渡ってしばらく歩いたところにコインランドリーとコンビニがあり、その灯かりがこの辺では一番明るい。
私は、そちらのほうを眺めたまま、先輩の存在にソワソワしていた。