「わかってるから。あいかわらず先生みたいだな、ホント」
「先生だし」
 仲の良さがうかがえる会話のテンポに、私はただただ愛想笑いと相槌を打つのみ。先輩が高3のときも、裏ではこんなふうにフランクに話していたのだろう。あの頃は全然知らなかったけれど。
「しかしさー、本当に荘原さんはよくやってくれてるよね。マネージャーひとりになったのに、準備片付け洗濯手当て、完璧にこなしてるし。部員のこともひとりひとりよく見て日誌とか反省つづってくれてるし。リストバンドもさ、ありがとう、イニシャル入りで私までもらっちゃって」
「イニシャル?」
 聞き返した九条先輩に、
「そう。荘原さん裁縫得意で、部員全員分のリストバンドにイニシャルを刺繍してくれたんだ」
 と大げさに褒める先生。
「へー、俺にはないのに」
「それにさ、私知ってるんだよね。試合で負けると、部員を励ました後で、みんなから見えない所でこっそりひとりで泣いてるの」
「あっ、いや、それは……」
 私は慌てて身を乗り出して、運転席のシートに手をかける。
 そういう場面を見られることほど恥ずかしいことはない。ていうか、先生も、私がこっそりそうしていたってわかっているなら、言わないでほしい。
「なんていうか、バスケ愛とかバスケ部員愛がね、素晴らしい。マネージャーの鏡っていうか」
「あー……そういや、俺らの引退試合のときも、体育館裏で泣いてたな。今思い出したけど」
 九条先輩にまで見られていたことに、顔から火を噴くほど恥ずかしくなる。私は慌てて、
「もっ、もうそういう話はいいですから、あの、今後のことを話しませんか?」
 と話題を変えた。
「あー、今後といえばさ、女バスがヤバいんだよね」
「え? ヤバいって……」
「人数的な話。まだ職員内でしか共有されてない話だけど、2年の後藤(ごとう)が家庭の事情で急遽今月いっぱいで転校することになってさ。まったく、中途半端な時期に……って、あ、これ一応内密にね」
「え……」
 後藤さんは女子バスケ部の主力選手だ。そうでなくても、女子は人数がギリギリで、ひとり抜けられるともう試合に出場できない。北見さんと根津さん、そして1年と2年がそれぞれひとりずつの4人になってしまう。
「じゃあ、大急ぎでもうひとり勧誘するか、試合の日だけでも引っ張ってきてお願いするかしないと……」