私も定位置の端っこに座る。そして、部活中の藍川先生と九条先輩の様子を思い出し、考察してみた。
藍川先生は男勝りでサバサバしているから、男子生徒にも友達みたいに接する。その延長で、OBである九条先輩へも冗談を言ったり小突いたりするのは頷ける。
 けれど、九条先輩は、私の記憶が正しければ女の人に気軽に触れるようなタイプじゃない。どちらかというと、女子を寄せ付けないようなオーラがあり、そういうノリを邪魔くさく思っているような印象がある。
 それなのに、小突かれて小突き返したり、小さいながらもスキンシップが多かったりと、他の人よりも藍川先生との距離が近かったような気がした。それに、ふとしたときに藍川先生へ送る視線が、優しく感じられたんだ。
先輩が高3のときに藍川先生にどう接していたのかは覚えていないけれど、もしかしたら先輩は……いや、先生と先輩は、やっぱり……。
あくびをしている九条先輩へ疑いの視線を送りつつ、私はおそるおそる口を開く。
「先輩……彼女いますか?」
 その質問に怪訝そうな顔で沈黙した先輩に気付き、
「あ! 違います。先輩のこと、本当に好きではないので」
 と説明する。それを聞いて、もっと眉間にシワを寄せる先輩。
「それはわかったけど……でも、何? 何か言いたいことあるの? あんた、今日様子がおかしい気がする」
「いえ……べつに」
「じゃあ、なんで俺に彼女いるかどうか気になるの?」
 私は口を真一文字にしたまま止まってしまった。もう、ここは正直に聞いてみたほうがいいのかもしれない。
「……えー……と、昨日、藍川先生と車で一緒に帰るのを見まして」
 ちらりと窺うように先輩を見ると、彼はさほど動じてはいない様子だ。先輩は、そんな読めない表情のままで口を開く。
「送ってくれるって言うから甘えただけだけど。べつにもう生徒じゃないわけだし」
「はい、それはわかっているんですけど、なんかそれを見た女子生徒が“あのふたり付き合ってるんじゃない?”みたいな話をして盛り上がってて」
「…………」
「その子たち、けっこうスピーカー女子だし、みんなに広めたい的なことを言ってたから、ほっといたら噂が広まりそうだな、と思って……」
 再度九条先輩を見ると、腕組みをしてベンチに背を預けながら、ちょっと気難しい表情になっていた。もしかしたら図星で、機嫌を損ねてしまったのかもしれない。