1、
「ねえ、アンナ、テルテル坊主って知ってる?」
エマとアンナは、ボーデ聖殿の裏庭にある東屋のベンチで、休憩をとっていた。
聖殿は丘の上に立っているので、いつもなら遠くの山々まで見えるのだが、ここ数日はずっと雨が降っていて、丘のふもとの街だけがぼんやりと靄の中に浮かんでいた。
「知らない。何それ?」
「東の地方のおまじないで、白い布で作った人形を軒先に吊るしておくと、翌日晴れるんだって」
「へえー。初めて聞いた。」
「ちょっとやってみようか」
そう言って、エマはハンカチとリボンで人形を作り、東屋の軒先にぶら下げた。
「こんなことで天気が良くなるなら、私100個くらい作ってもいいけど」と、アンナが立ち上がりテルテル坊主を揺らすと、
「あそこ見て!ちょっとだけ晴れてる」とエマが東の空を指さした。
見ると、雨雲に切れ目が出来て、そこから日の光がまるで柱のように差し込んでいる。
「すごい!これ、本当に効果あるじゃない。じゃあアンナ、あと100個お願いね」
「たまたまよ、たまたま。ただの偶然」とアンナも空から差し込む光を眺めていたが、ふと何かがおかしいことに気がついた。
光の柱が、凄いスピードでこちらに近づいてくるのだ。しかも、明らかに雲の流れと関係ない方向に動いている。
さらによく見ると、その中を何かが飛んでいた。
「ねえ、エマ。あれ、何?」
「え?」とエマも光の中を見つめた。

二人並んで凝視、10秒経過、そして完璧なシンクロで叫んだ。
「「ドラゴンだ!」」