勿体ないとも、可愛げがないとも言われるその人は、いつも輝いていた。それは彼女自身から発せられているとも言えたが、君子は彼女が人ならざる者の加護を受けていることを、何となく感じていた。もちろん、話したところで誰も信じるはずはないから、本人にすら聞いたことはないけれど。彼女だけではない。例えば同学年に桑原という少女がいる。父親が成り上がりらしく、随分汚いやり方をしてきたのだろう。あまりよくない者が彼女のそばをまとわりついている。今のところ彼女に危害を加える気はないようで、彼女には睨みを聞かせているといった状況である。当の本人は気が付いていないようだから、呑気なものである。
 そんな負の要素を纏った同級生のことは、それほど重要ではないが、憧れの先輩に会えなくなるのは、寂しい。だが、君子に物を言う権限があるはずもない。父は仕事で家を空けることが多く、次に帰ってきたときには、「相手の方と会ってみなさい」と、会う約束を取り付けられてしまっていた。
 しかし、会おうが会うまいが、これは決定事項である。君子の母は、すぐにでも嫁がせ、女学校を退学させようとしている。娘が「卒業面」と言われることが余程恐ろしいのだろう。
家柄のことは、君子の生家より少し格上のお家だという話は聞いた。ますます断れないじゃないかと父を恨めしく思った。ただ、父も鬼ではないらしく、婚姻前に会う時間を設けてもらえることとなった。
初めて見た婚約者は、背がすらりと高く、精悍で真面目そうな顔立ち。君子にも二枚目であることがわかる。思わず父の後ろに隠れてしまうと、彼は穏やかな声で「怖がらせてしまったかな」と言った。そうではない。しかし否定するのも恥ずかしく、君子は頬の熱が引かぬまま、青年と対面した。年を聞かれ、おずおずと答えると青年は、にこやかにこう言った。
「君より少し年長の妹がいるんだ。とんだじゃじゃ馬だがね」
 そんなことを言ってはいるが、その瞳は慈愛に満ちている。その妹とやらを心から愛してやまないのだろうということが見てとれる。家族思いなのだろうと君子は好ましく思った。
 その日は二言三言会話するに留まったが、案の定縁談は進んだ。想像していたよりはいい相手だったために、全否定をする気は失せたが、それでも気がかりなことはある。

「学びたいと思うことは、贅沢なことなのでしょうか」