今回の件は、陽茉莉の力だけではきっとできなかった。
 上司である相澤に資料の作り直しを命じられ、陽茉莉は営業先の担当である山田さんに連絡を取った上でいくつかの課題を確認し、それを解決する打ち手となるような商品のラインナップを揃えて営業に挑んだ。

 例えば、価格は高めだが完全にアレルゲンフリーでアトピーなどの敏感肌の方でも使えるマッサージクリームや、いいと感じているけれども大きいボトルを買うのはちょっと……と思っている方がお試しに使えるミニサイズの自宅用化粧品セットなどだ。これに関しては、本当は旅行用を目的として作られたものだが、陽茉莉は敢えて自宅用として提案した。

 お客様が期待していた以上のものを提供すると、あんな風に喜んでもらえるんだ。
 ありがとう、と言った山田さんの笑顔が脳裏に浮かぶ。

 それは、陽茉莉にとって新鮮な驚きであり、経験したことがない喜びだった。