(あれ? あのおかしな化け物は……)

 いつの間にか、陽茉莉に迫ってきた異形のものはいなくなっていた。
 目の前にいるのは相澤だけだ。

「立てるか? 怪我しているな」

 怪我をしていると聞いてふと足を見ると、膝から血が出ていた。恐怖のあまりにほどんど痛みを感じなかったが、さっき転んだときに擦りむいたようだ。

「大した怪我じゃないんで、大丈夫です」

 陽茉莉はそう告げると、慌てて立ち上がろうとする。

 ところがだ。

(あ、あれ……?)

 おかしい。足に力が入らない。

「どうした? 痛むのか?」

 陽茉莉は心配げに問いかけてくる相澤を見上げる。

「…………。すいません。腰が抜けて動けません……」

 その瞬間、相澤の瞳が大きく見開いた。