男性が陽茉莉へと手を差し出す。その手が首元へ伸びてきたとき、陽茉莉はヒュッと息を呑んだ。

 手はとても冷たかった。
 寒い中を外にいただけが原因とは思えないほどに冷えた、氷のように生気のない感触。

 ぞくりと寒気がして、急激に肩の辺りが重くなるのを感じた。

(──これ)

 この感覚を知っている。
 忘れたくても、忘れられるはずがない。あれは、相澤に恋人がいると聞いてなぜかむしゃくしゃして、やけ酒下挙げ句に邪鬼に襲われたときだった。

「嫌っ!」