「探し物をしているのですが、見つからないのです。困っているので、貸していただけませんか?」 「貸す? でも、今、私もほとんど何も持っていないんです」 陽茉莉は突然の申し入れに面を食らった。今、陽茉莉は財布とスマホ、ティッシュくらいしか持っていない。 「ああ、それなら大丈夫です。あなたの持っているものなので」 男性はにこりと微笑んだ。 「はあ……」 お金を貸してほしいと言うことだろうか? 確かに、目の前の男性は奇妙なほどに何も持っていなかった。それこそ、鞄のひとつすらも──。