相澤はカーテンの隙間から、煌々と光る丸い月を恨めしげに見上げる。
満月の夜は、あやかしの性質──狼の血が強くなる。欲望に忠実になり、抑えが利きにくくなるのだ。
先ほどは帰って来た陽茉莉から自分以外の男──高塔の気配が強く感じられて、込み上げる嫉妬心を制御できずに陽茉莉のことを押し倒してしまった。
涙目になってこちらを見つめる陽茉莉を見てようやく我に返り、揶揄ったかのようにその場をやり過ごした。
──礼也さん。
恥じらいながら自分の名を呼ぶ陽茉莉の様子が、脳裏に甦る。
自分で呼べと言ったにも拘わらず、想像以上の破壊力だった。たった三文字の言葉が、特別な意味を持った気がした。