「ちょっとだけ足を怪我しているけど、大した傷じゃないからすぐ元気になりますよ」

 眼鏡をかけた若い獣医さんは、診察を終えると呑気な声で陽茉莉にそう言った。

「本当ですか? ありがとうございます!」

 陽茉莉は声を明るくしてお礼を言う。

(そういえば、あの声、聞こえなくなったな)

 ふと陽茉莉は、この犬を見つける直前まで怯えていたあの不気味な声が聞こえなくなっていることに気付く。

「もしかして、お前が悪いお化けを追い払ってくれたのかな?」

 陽茉莉は子犬の頭をそっと撫でる。

 子犬は元々どこかの飼い犬だったのか、とても人に慣れていた。
 まるで陽茉莉の言うことがわかるかのようにこちらを見つめてくる。

「ふふっ、可愛い」