陽茉莉は驚いてもう一度そちらを見る。そこにはやっぱり、異形の子供がいた。

 必死で説明したけれど友達は首を傾げるばかりで、近くでお喋りをしていたお母さん達は困ったような顔をした。

 それからも同じようなことが続いた。

 ふとしたときに見かける、髪が長く肌が青白い和装の男性、犬とイノシシを掛け合わせたようなおかしな生き物、角の生えた子供……。けれど、それらは他の人には見えていないのだ。

 そして、決定的な事件が起きたのは十歳の頃だった。

 ひとりで図書館に本を借りに行った帰り道、ふと「ヒヒッ」と耳障りな嫌な声が背後から聞こえた。ひたひたと後を追いかけてくるような、気味の悪い足音も。

(な、何?)

 振り返ってはならない。本能的にそう感じた。

 陽茉莉は借りてきたばかりの本を入れた鞄を胸に抱きしめ、足を速める。すると、ひたひたと後を追う足音もそれに合わせるように速まった。