そこまで言うと、楠木さんはきょろきょろと辺りを見回し、人が出払っているのを確認する。
その仕草で、これは仕事ではなく噂話だなと陽茉莉は瞬時に悟った。楠木さんは社内の噂話が大好きなのだ。
「相澤係長なんだけど、やっぱり恋人がいるらしいわ。和風な雰囲気の美女だって」
「は?」
思わず、おかしな声が出てしまった。
相澤係長に恋人?
そんな気配は全く感じないが。
「ただの噂じゃないですか?」
「でもね、総務部の服部さんがデート現場を見たらしいのよ。ちょっといい雰囲気のレストランの前で、ふたりで話をしていたって。しかも、かなり親しげな様子らしいわよ」
「レストラン? 人違いってことはないですか?」