そうやって過ごしているうちに人の興味というものはどんどん別のものに流れていく。

門脇もいったん酒造りが落ち着き余裕ができたから俺に興味を示していただけだ。

出荷作業までの間にするべきことはまだまだ山積している。
正確にいうと上槽後、オリ引きをして濾過して火入れして。
その後貯蔵した酒は出荷する前に最終調整を行う。

まずは調合。
同じ工程で造られた酒でもタンクによって微妙に味や香りに変化が生じる。
これは自然の微生物の働きが絡んでいるから致し方がないんだけど。

でもお客さんは。
特にうちを贔屓にしてくれているリピーターさん達は。
うちの蔵の味をある程度把握しているから。
あまりにも香味が違っているとクレームがつく。
…らしい。
皆さんの味覚の鋭さに文字通り舌を巻く思いだ。

要はテイスティングしてタンクごとに違う香味を見極めて。
うちの蔵の酒質になるようブレンドして調整しなければならない。
それが調合だ。

これが意外と重要な作業になっている。
なぜかというと、うちの酒の味わいを決める重要な作業だからだ。

うちの酒の味わいについての説明は、大抵酒瓶のラベルに載せているし、それを読んで購入を決めるお客さんだっている。

たとえば。
”フルーティで後味スッキリ”とか。
”コクとキレを感じる”とか。
”吟醸独特の香りと責める味わい”とか。
表現する内容は枚挙に暇がない。

でもコクがあると書いているのにスッキリし過ぎていたりすると。
個人差はあるにしても明らかに誰が飲んでもそう思ってしまうような場合はマズイから。

きちんと自分たちの造る酒のコンセプトにあった香味に仕上げなければならない。