「ありがとうございます…。これは…余分にあったみたいで。加賀見さんにって」

「お父さんが?」

「はい。それと…電化製品も足りないものがあれば…ポットとかも余分にあるみたいです」

「そんなに余ってるんですか?」

「ええ。今は随分変わりましたが、昔はもっとたくさんの蔵人が住み込みで働いていたんです。そのときの…ちょっと年代物ですけど…。加賀見さんがよければ使ってと…」

やはり…
ウェルカムされてるんだろうか?
そう勘違いしてしまうくらい、父親の心遣いがありがたかった。

「それから、やることが済んだら母屋に来て欲しいそうです…。先に少しだけ蔵のことを説明するって」

「わかりました。終わり次第行きます」

「母屋の玄関は開いているので勝手に入ってもらって大丈夫です…」

「そうなんですか?」

「お恥ずかしいですけど、ここらの人達は皆、鍵を掛けません」

「えっ?夜も、ですか?」

「はい」

それはなんとまぁ…
治安がいいんだろうが。
こういうちょっとしたことも都会との違いを見せつけられる思いだ。

俺は片付けを手際よく終わらせ母屋に向かった。

雪穂に言われたとおり、玄関の引き戸に手を掛けると、いとも簡単にスルリと開く。
それでも黙って上がるのはさすがにできない。