森の服屋は、ハリネズミとシマリスの二人が営んでいます。
 ハリネズミは、縫い物も編み物も大好きです。
 シマリスは、ボタン作りや刺しゅうが大好きです。
 店番をしながら、二人は仲良く並んで服を作っていました。

 でも、ここ数日、店の中はハリネズミ一人きりでした。
 シマリスが、熱を出して寝込んでしまったからです。
 ハリネズミは毎日お見舞いに行きたいのですが、それはシマリスに断られてしまいました。
 大事な仕事があるのに、ハリネズミに風邪を移すわけにはいかないと、そう言われました。

 店の奥で、ハリネズミはせっせと赤い毛糸を編んでいます。
 でも、時々手を止めては、ふう、とため息をつきました。

 ハリネズミは、赤いポンチョを14着注文されています。
 けれど、壁にかかっているポンチョは、まだ5着です。

 いつもなら、ハリネズミ一人でも、約束の日までに間に合うでしょう。
 でも、今、ハリネズミはとっても元気がありません。
 お熱のあるシマリスの分も、自分ががんばらなくてはいけないのに、ちっとも編み棒が進みません。

 ハリネズミは、隣のイスを振り返りました。
 いつもにこにこ笑ってくれるシマリスは、そこにいません。
 お家で寝込んでいます。

 ハリネズミは、台所を振り返りました。
 いつも温かいホットミルクを作ってくれるシマリスは、そこにいません。
 お家で寝込んでいます。

 ハリネズミがしょんぼりしていると、ぐーっとおなかが鳴りました。

 ***

 ハリネズミはエダツノ屋へ出かけました。
 台所に、ジャムやピクルスしかなかったからです。

 エダツノ屋には、野菜も魚もたくさん売っています。
 でも、ハリネズミはご飯を自分で作る元気もなかったので、クラッカーだけ買って帰ることにしました。

 カウンターへ来ると、シカのおばさんが言いました。

「ハリネズミさん、おいしいキャンディを仕入れたの。良かったら、どう?」
「キャンディ?」

 ハリネズミは、甘いものが大好きです。
 興味をひかれてお菓子の棚へ来ると、見慣れない袋がありました。

「ハニーミルク?」

 シマリスがいつも作ってくれるホットミルクにも、ハチミツが入っています。
 ハリネズミは、そのキャンディも買って行くことにしました。

 ハリネズミは、店を出ると、さっそくキャンディを一粒食べてみました。
 ミルクの優しさとハチミツの甘さが広がって、胸が少し暖かくなりました。

 ***

 ハリネズミが服屋に戻ってくると、丁度若いイノシシがやって来ました。
 引いている荷車に、「イノシシ園芸店」と書かれています。
 イノシシがぺこりと頭を下げて、低い声で言いました。

「ご注文のものを、届けに来ました。」
「え? わたし、何も頼んでないよ?」

 ハリネズミが首をかしげると、イノシシはちょっと笑いました。

「いえ、シマリスさんです。寝込む前に。」
「シマリスが?」

 イノシシが荷車から下ろしたのは、ピンクのシクラメンでした。
 ハリネズミがドアを開けると、イノシシはシクラメンの鉢を窓際に置いてくれました。

 窓からの日差しを浴びて、花が光って見えます。
 ゆれる花を見ていると、シマリスが応援してくれているような、そんな気持ちになりました。
 ハリネズミは、胸の奥から元気が湧いてきました。

「イノシシくん、イノシシくんっ。」

 ハリネズミは、外へ戻ろうとしているイノシシを呼び止めました。

「お花、届けてくれて、ありがとうっ。」

 そう言って、イノシシの大きな手に、キャンディを5つ握らせました。

「気をつけて帰ってね。」

 ぺこりと頭を下げて、イノシシが荷車を出発させます。
 遠ざかって行く背中が木々に隠れるまで、ハリネズミは手を振って見送りました。

「よし! がんばろう!」

 店の奥へ戻り、テーブルに放っていたポンチョを手に取りました。
 その瞬間、

 ぐーっ!!

 っと大きな音が鳴りました。
 まず、ご飯を食べなくてはいけません。


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