「そんな感じで、自分では頼めなかったんだけどね。いつも孫が『おばあちゃん、ひとくちあげる』って食べさせてくれたり、『おとなのメニューが食べたいから交換しよう』ってそのままくれたりしたんだよ。きっと、私がよっぽどうらやましそうな顔をしていたんだろうね。孫は優しい子だから、気を遣ってくれたのかもねえ」

そう語るおばあさんの表情も、とっても優しい。私もおばあちゃん子だったから、こういう話を聞くとほっこりしてしまう。

「だから、私にとってはお子様ランチは、歳をとってからの孫との思い出の味なのさ。子どものころの思い出じゃなくてね」

おばあさんは、顔を上げて私と目を合わせた。

「そういうのも素敵ですね……」

 歳を重ねてきたからこその、思い出の味。ごはんの思い出って、忘れて減っていくものじゃなくて、増えていくものなんだな。結婚したり、孫ができたり、仕事についたり……。生きていると、楽しいだけじゃないたくさんの大きな出来事が起こるけれど、それと同じだけのごはんの思い出も、できていく気がする。

「お孫さんは、もう大きいんですか?」
「ああ、もう結婚するような年齢だよ。お姉ちゃんや店主さんよりは、少し上くらいかね」

 というと、二十代後半だろうか。そうすると、おばあさんは八十歳前後くらいかな。もっと若く見えたから意外だ。

「それじゃ、そのころを思い出せるようなものを作りますね」

 一心さんは、お子様ランチにのっていたものを詳しく聞いている。
 久しぶりに思い出したら、なんだか私も食べたくなってしまった。一心さんに頼めば、まかないで作ってくれるだろうか。

 客足の少ない時間帯だったので、一心さんが料理をしている間、私はレジの点検をしたりしていた。そのとき、レジカウンターに置いてあるペンと厚紙を見て、ふと気づく。

 こころ食堂には、〝あれ〟はあったっけ……?