「はい」
「こころ食堂さんはどうですか、と水を向けられてしまってな」
「えっ」
「俺はそういう場は苦手だから、と断ったんだが――。組合会長が、去年の秋にやった芋煮会を目撃していたらしく、俺なら適任だと言われた」

 あの芋煮会は、あじさわの店主である一心さんのお父さんにすすめられて開催したものだった。周りの人たちに感謝を伝えるという意味合いで、あじさわでも毎年行っているらしい。たくさんの人が来てくれて、とても和やかな会だったけれど、それを見られていたとは。

「ほかは父親と同じ歳くらいの店主ばかりだったし、期待のこもった眼差しに首を横には振れなくてな……。ついうっかり、引き受けてしまった」

一心さんの言葉に、思わず目が丸くなる。芋煮会と違って人混みだし、お祭りだし、どう考えても一心さんの得意分野ではない。それでも断れなかったなんて、お人好しで困った人を放っておけない一心さんらしい。

「準備期間も短いし、おむすびには迷惑をかけてしまうが……。協力してもらえるだろうか」

 硬い雰囲気だったのは、このことを話すのが気まずかったからなのか。今はもう、申し訳なさそうな声を出しながらも覚悟を決めた顔に変わっている。

「もちろんです! 屋台を出すなんて、すごく楽しそうです。屋台向けのメニューを考えるのも、ワクワクしちゃいます」

 そう答えたのは、気遣いではなかった。大学の学祭でも、屋台を出している同級生たちをうらやましく思っていたのだ。クレープを焼いたり、わたあめを作ったり、だれしも一度は憧れるものだと思う。食堂の屋台だから、もっと本格的なものを求められているのだろうけど。

「おむすびなら、そう言ってくれると思っていた」