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 二週間足らずの準備期間は、あっという間に過ぎてしまった。
試作と試食を重ねたちらし寿司と桜餅。ちらし寿司は、千切りにしたキュウリとほぐした鮭で段を作って、上に錦糸卵とさやえんどう、バラの形に丸めたサーモンを飾る。遠くから見たら本当にカップスイーツみたいだ。

 桜餅は、甘さ控えめのこしあんを、桜色のクレープ生地で包み、塩漬けにした桜の葉を巻く。しょっぱさと甘さのバランスがちょうどよくて、ちらし寿司のデザートにすごく合う。

 持っていく調理器具や材料もピックアップし、タイムテーブルも作って、いよいよ当日。

 つぼみがほころぶ程度だった桜は祭りに合わせたように満開で、準備のために朝から公園に向かった私たちは、思わず感嘆の息をもらす。
高低差のある公園に生えた、何百本もの桜。自然のままの丘に競うように咲いた桜たちは圧巻で、桜まつりには来たことがあるのに鳥肌がたった。

「おむすび。桜、すごい」

 私と一緒に食材の搬入を手伝ってくれているミャオちゃんは、台車を押しながらきらきらと目を輝かせている。お母さんである優里さん手作りの猫耳つきベレー帽をかぶり、カットソーと重ね着したチュニックワンピに、ゆるっとしたデニムを合わせている。

「見事ねえ。まだ一般の人たちは来ていないから、なんだか得した気分ね」

 響さんも、酒瓶を運びながら桜を見上げてつぶやいた。
 屋台の準備がなければ、人混みの中での桜しか見物できなかったわけだから、確かにこれは特権だ。