「――ねえ、どう……だった?」

 さやかが原稿を置いたタイミングで、愛美はおそるおそる彼女に訊いてみた。
 本物の編集者とかなら、ここはもったいぶって間を作るところだけれど。さやかはド素人なので、すぐに感想を言った。

「いいじゃん! 面白いよ、コレ。コレならコンテストでもいいところまで狙えるんじゃない?」

「えっ、ホント!?」

「うん。あたし、難しいことはよく分かんないけどさ。愛美らしさが出てていいんじゃないかな。文章で大事なのって、他の人には書けない文章かどうかってことだと思うんだよね。個性……っていうのかな。この小説には、それがちゃんと出てる」

「そっか。ありがと。――このお話はね、子供の頃に、私が夏休みにお世話になった農園で過ごした頃の純也さんがモデルになってるの」

 愛美はそこまで言ってから、はたと気がついた。

(……あ、そういえば、珠莉ちゃんにはまだ話してなかったな。農園で純也さんの子供時代の話聞いたこと)

 さやかには夏休みが終わる前に話して聞かせたけれど、珠莉には話す機会がなかった。さやかから彼女の耳に入っているかな……とも思ったけれど、どうやらそれもないようで。 

「純也叔父さまが? ――そういえば、私もお父さまからそのお話聞いたことがありますわ。純也叔父さまは子供の頃、喘息持ちだったって」

「うん、そうらしいの。その頃はまだ農園じゃなくて、辺唐院家の別荘だったらしいんだけどね。そこのおかみさんが昔、辺唐院家の家政婦さんだったんだって」

 それで、純也が病気の療養のために長野に滞在する(さい)、彼女も同行していたのだと愛美は話した。

「へえ……、そうでしたの。その家政婦さん、多恵さんっておっしゃったかしら? 私が物心ついた頃にはもういらっしゃいませんでしたけど」

「なんかね、五十代でお仕事辞めて、ご夫婦で長野に移住されたらしいよ。せっかくあの家と土地を純也さんが譲って下さったから、って」