コンコン、とドアをノックして――。

「さやかちゃん、珠莉ちゃん。愛美だけど。入っていい?」

「愛美? ――いいよ。入んなよ」

 さやかの声で返事があったので、愛美はドアを開けて二人の部屋に入った。

「どしたの?」

「あのね、小説できたから。まずは約束通り、二人に読んでもらいたくて。で、感想とか、アドバイスとかもらえたらなーって」

 そう言いながら、愛美はダブルクリップで()じた原稿を、二人が(くつろ)いでいるテーブルの上に置いた。

「そっか、書けたんだ。頑張ったね! 分かった。さっそく読ませてもらうね」

 原稿を取り上げたさやかは、テーブルの向かいにいた珠莉を手招き。

「珠莉もこっち来て。一緒に読もうよ」

「ええ、いいですわよ。愛美さん、私も僭越(せんえつ)ながら、読ませて頂くわ」

「うん。じゃあわたし、自分の部屋で待ってるから」

「えー? いいじゃん、ここにいなよ。ここにあるミルクティー、飲んでていいからさ。お菓子もあるし」

 一度部屋に戻りかけた愛美を、さやかが部屋に引き留める。
 愛美としては、誰かに自分の小説を読んでもらう時、その場にいると落ち着かないので離れていたいのだけれど……。

「……うん、分かった」

 自分がお願いしたことだし、こう手厚い待遇だと「イヤ」とも言いづらいので、この部屋に留まることにした。

(っていうか、この寮のルールでお菓子の持ち込みってどうなってたっけ?)

 原稿を読む二人をチラチラ気にしながら、テーブルの上のクッキーをつまんでいた愛美は小首を傾げた。
 多分、「お菓子の持ち込みはなるべく(ひか)えましょう」くらいしか書いていなかったような気がする。もし見つかっても、人に迷惑さえかけなければ寮監の晴美さんも何も言わないだろう。

 ――小説は原稿用紙三十枚ほどの短編なので、読み終えるのに三十分もかからなかった。