愛美があの時に感じたドキドキ感を、そのままこの小説の主人公に投影しようと思ったのだ。……もっとも、愛美自身は元々都会っ子ではないのだけれど。

(このプロットがひと段落ついたら、おじさまに手紙書こう)

 無事に寮に帰ってきたこと、二学期が始まったこと、小説のコンテストに挑戦することを報告しなきゃ。愛美はそう決めた。

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『拝啓、あしながおじさん。

 お元気ですか? わたしは今日も元気です。
 夏休みも終わって、寮に帰ってきました。そして今日から二学期です。
 先生たちが「二学期から勉強が難しくなるよ」って言ってたので、わたしもほんのちょっとだけ不安です。本当に、ほんのちょっとだけ。
 おじさまに、わたしから一つご報告があります。さやかちゃんの勧めで、わたしは毎年この学校の文芸部が行ってる短編小説コンテストに挑戦することにしました! いよいよわたし、作家への一歩を踏み出したんです!
 このコンテストは文芸部員じゃなくても応募できるそうで、わたしも部員じゃないけど出すことにしたんです。入選したら、賞金も二万五千円出るそうです。
 題材は、千藤農園でお世話になってる時に書き溜めておきました。
 豊かな自然、農園での生活風景、農作業、それから子供の頃の純也さんのこと。これを全部組み立てたら、「都会育ちの男の子が初めて暮らすことになった農園での冒険」のお話ができました。
 まだプロットができたところですけど、これから頑張っていい小説にします。
 書きあがったら、まずはさやかちゃんと珠莉ちゃんに読んでもらうことになってますけど、ぜひおじさまにも読んで頂きたいです。
 また進み具合をお知らせしますね。ではまた。    かしこ

    九月一日             愛美           』