「あー、そっか。今が初恋だったね。でもさ、これで恋愛小説も書けるようになるんじゃないの?」

「…………まあ、そのうちね。考えとく」

 さやかに食い下がられ、愛美はそう答えた。
 今も想像でなら、書けないこともないかもしれないけれど。とりあえず今は自分の気持ちだけでいっぱいいっぱいで、この経験を小説にしようなんて発想は浮かばないのだ。

「うん……、そっか。まあ、今回はどんなの書くかわかんないけどさ、頑張ってね。書けたらコンテストに出す前に、あたしたちに一回読ませてよ」

「私も読んでみたいわ。楽しみにしてますわよ」

「うん、もちろん!」

 小説というのは、自己満足で終わってはいけないと愛美は思っている。
 自分では「いい作品が書けた」と思っていても、客観的に読んで評価してくれる人に一度は読んでもらわないと、それが本当に〝いい作品〟かどうか分からないのだ。
 親友になりつつある二人が最初の読者になってくれるなら、これ以上喜ばしいことはない。

「その代わり、忖度(そんたく)ナシでズバズバ批評(ひひょう)させてもらうから。覚悟しといてね」

「ええ~~~~!? お手柔らかにお願いっ!」

「ハハハッ! 冗談だよ、冗談っ! ――さ、帰ろっ」

 愛美のブーイングをさやかが笑って受け流し、三人は改めて寮への帰路(きろ)についた。

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 寮のさやかたちの部屋でお茶を飲み、自分の部屋に帰ってきた愛美は、荷物をすべてしまい終えると机に向かった。
 開いたのは買ってきたばかりの原稿用紙……ではなく、ネタ帳兼メモ帳として使っているあのノート。開いたページには、夏休みに千藤農園で書き留めてきた小説のネタがビッシリだ。

「よしっ! 書こう」

 まずは真新しいノートに、プロットを作成する。
 書こうと決めたのは、子供時代の純也さんのエピソードを(もと)にした短編である。都会で育った男の子が、あるキッカケで農園で暮らすことになり、そこで色々な初めての〝冒険〟をする、というストーリーだ。