さやかが姉のように、愛美を(さと)す。
 彼女は頼られる方が嬉しいんだろう。だから、もっと愛美に「頼ってほしい」と思っているのかもしれない。

「そうですわよ、愛美さん。困っている時に誰かを頼ったり、甘えたりできるのは子供だけの特権ですわ」

「それに、おじさまだって愛美に『甘えてほしい』って思ってるかもよ? わが子も同然なんだし」

「……うん、そうだね」

 と頷いてはみたものの。これまで(つちか)われてきた性格というのは、なかなか直らないものである。
 そして彼女の〝甘え下手な性格〟が、この先彼女自身を苦しめてしまうことになるのだけれど、それはさておき。

「――さて、ボチボチ帰ろっか。それともどっかで一休みして、お茶でもしてく?」

「そうですわねえ。それなら私、いいお店を知ってますわよ」

(お茶……)

 盛り上がっている二人をよそに、愛美はその一言に過剰(かじょう)に反応してしまった。初めて純也と二人でお茶した日のことを思い出し、彼女の顔はたちまち真っ赤に染まる。

「……ん? 愛美、どした? 顔赤いけど」

「…………なんか今、純也さんのこと思い出しちゃった」

「あらまあ、叔父さまのことを?」

 珠莉が目を丸くした。けれど、気を悪くした様子はない。

「うん……」

「恋するオトメは大変だねえ」と、さやかは笑った。

「オッケー。お茶は寮に帰ってから、ウチの部屋でやることにして。帰ろ。その代わり――」

「えっ?」

「愛美が書こうとしてる小説の構想、聞かせてよ。……あっ、もしかして恋愛小説書くつもりだったり?」

 さやかが愛美をからかってきた。ただし、彼女に悪意はない。女子高生は、人の恋バナを聞きたがるものである。

「ぇえっ!? まだ何にも決まってないよ、ホントに!」

 恋愛小説なんて、今の愛美に書けるわけがない。今まで恋愛経験が全くないんだから。