三人は教室を出て、寮に向かうべく校舎二階の廊下を歩いていく。
 その途中、文芸部の部室の前を通りかかると――。

「……ん? 見て見て、愛美! コレ!」

 さやかが一枚の張り紙の前で立ち止まり、愛美に呼びかけた。

「どしたの、さやかちゃん? ――『短編小説コンテスト、作品募集中』……」

 愛美の目も、その張り紙に釘付けになった。
 それは、この学校の文芸部が毎年秋から冬にかけて行っている短編小説のコンテストの張り紙。よく読んでみると、「部員じゃなくても応募可」とある。

「ねえ愛美、ダメもとで出してみなよ。どうせ小説書くんなら、何か目標あった方が張り合いあるでしょ? チャレンジしてみて損はないと思うよ」

「そうねえ。愛美さんのお書きになる小説を読んでもらえる、いいキッカケになるかもしれないわよ?」

 二人の友人に勧められ、愛美は考えた。

(わたしの書いた小説を、読んでもらえる機会……)

 中学時代は文芸部に入っていて、部誌に作品を載せていたから、多くの人の目に自分の作品が触れる機会があった。そのおかげで〝あしながおじさん〟の目にも止まり、愛美は今この学校に通えている。
 それに、施設の弟妹たちに向けてもお話を書いて読ませてあげていた。

 高校に入ってから約半年、やっと(めぐ)ってきた機会だ。乗るかそるか、と訊かれれば――。

(もちろん、乗るに決まってる!)

「うん。――さやかちゃん、珠莉ちゃん。わたし、これに挑戦してみる!」

 愛美は二人の友人に、高らかに宣言した。

「愛美っ、よくぞ言った! 頑張ってね!」

「私も応援するわ! 頑張って下さいな」

「うん! 二人とも、ありがと! わたし頑張って書くね!」

 張り切る愛美は、このあと街で買うものを決めた。

(原稿用紙とペンが()るなあ。あと、資料になる本も)