「わたしは……、そりゃあ構わないんだけど。いいのかなぁ? 勝手にそんなことして。晴美さんに怒られない?」

 もちろん、愛美自身は親友の頼みごとを聞き入れてあげたい。けれど、寮のルールでは「他の寮生の部屋に泊まってはいけない」ことになっているのだ。
 真面目な愛美は、そのルールも破るわけにはいかないのである。

「だよねえ……。でもさ、晴美さんの許可が下りれば……って、下りるワケないか」

 寮監の晴美さんは普段は気さくな人柄で、温厚な性格から寮生に慕われてはいるのだけれど。ことルールに関しては厳しいのだ。

「……いいや。ムリ言ってゴメン。愛美が悩む必要ないからね」

「うん。わたしこそゴメンね。ホントはさやかちゃんとこの部屋で寝るの、楽しみだったんだけど」

 同い年の女の子、それも親友とのピロートーク。これまで年下の子たちとしか同室になったことがない愛美の、密かな憧れだった。

「そうなんだ? じゃあさ、来年は一緒の部屋にしようよ」

「うん! そうしよ!」

(来年の部屋替えでは、さやかちゃんと同室にしてもらえるようにお願いしてみよう。それまでは淋しいけど、一人部屋でガマンガマン!)

 愛美に、次の学年に向けての一つの楽しみができた。

(……あ。もしかしたら、珠莉ちゃんも「さやかちゃんと同室がいい」って言うかも。そしたら三人部屋か……)

 ちなみに、一年生の部屋が並ぶこの階には三人部屋はないけれど、二年生から上の学年のフロアーには三人部屋が何室かあるらしい。

(ま、いっか。賑やかな方が楽しいし)

 愛美は来年度、三人部屋になる可能性を前向きに考えた。
 彼女は元々、どちらかといえばポジティブな方なのだ。落ち込むことがあったとしても、すぐにケロリと立ち直ることができる。愛美の自慢の一つである。