――夏休みが終わる一週間前、愛美は〈双葉寮〉に帰ってきた。

「お~い、愛美! お帰り!」

 大荷物を引きずって二階の部屋に入ろうとすると、一足先に帰ってきていたさやかが出迎えてくれて、荷物を部屋に入れるのを手伝ってくれた。

「あ、ありがと、さやかちゃん。ただいま」

「どういたしまして。――で、どうだった? 農園での夏休みは。楽しかった?」

 さやかはそのまま愛美の部屋に残り、愛美の土産(みやげ)話を聞きたがる。
 愛美はベッドに腰かけ、座卓の前に座っているさやかに語りかけた。

「うん、楽しかったよ。農作業とか色々体験させてもらったし、お料理も教えてもらったし。すごく充実した一ヶ月間だった」

「へえ、よかったね」

「うん! いいところだったよー。自然がいっぱいで、空気も澄んでて、夜は星がすごくキレイに見えたの。降ってくるみたいに。あと、お世話になった人たちもみんないい人ばっかりで」

「星がキレイって……。アンタが育った山梨もそうなんじゃないの?」

 〝田舎(いなか)〟という(くく)りでいうなら、長野も山梨もそれほど違わないと思うのだけれど。――ちなみに、ここでいう〝田舎〟とは「〝都会〟に対しての〝田舎〟」という意味である。

「そうかもだけど。ここに入るまでは、星なんてゆっくり見てる余裕なかったもん」

 施設にいた頃の愛美は、同室のおチビちゃんたちのお世話に職員さんのお手伝い、学校での勉強に進路問題にと忙しく、心のゆとりなんてなかったのだ。

「あ、そうだ。あのね、わたしがお世話になった農園って、純也さんとご縁があったの。昔は辺唐院家の持ちもので、子供の頃に喘息持ちだった純也さんがそこで療養してたんだって」

 彼の喘息が完治したのは、あの土地の空気が澄んでいたからだろう。