(わたしも、子供の頃の純也さんに会ってみたかったな……。そうだ! 今度会った時、ここのこと彼に話してみようかな)

 彼はどんな顔をするんだろう? 照れ臭そうにするかな? それとも得意そうに微笑むのかな……?
 愛美は本を手にしたまま、自分の部屋に戻った。彼が夢中になって読み耽っていた本。その面白さを共有したいと思った。

 ――そしてその夜、愛美が昼間に書いた手紙には続きが書き足された。

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『おじさま、今は夜の九時です。
 この手紙は午後に一度書き上げてましたけど、あのあと書きたいことが増えたので少し書き足します。
 夕食の後、多恵さんから純也さんの子供の頃のお話を聞かせて頂きました。
彼は昔喘息があって、十一歳くらいの頃にここで静養してたそうです。でも発作が起きない時はお元気だったそうで、ほとんど毎日泥んこになるまで外で遊び回ってたらしいです。
 この家の屋根裏には、彼のお気に入りの本や遊び道具がたくさん残ってます。きっと、雨降りで外で遊べない時に、そこで過ごしてたんじゃないかな。
 彼は子供の頃から読書好きだったみたい。そして無邪気で素直で、正義感も強かったんだと多恵さんは教えて下さいました。
 わたし、彼の幼い頃のことを知って、ますます彼のことが好きになりました。お金持ちの御曹司で青年実業家の純也さんではなく、〝辺唐院純也〟という一人の男性として。決して打算なんかじゃありません!
 今度こそ、これで失礼します。おじさま、おやすみなさい。      』

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 ――夏休みが始まって約一ヶ月が過ぎた。

 愛美も農作業にすっかり慣れ、夏野菜の収穫や採れた野菜での簡単なピクルスの作り方などをマスターした頃。千藤家に一本の電話がかかってきた。

「――はい、千藤でございます」

『もしもし、多恵さん? 僕だよ。純也だよ』