「そうね。正義感もお強かったし、それでいていたずらっ子なところもおありだったわ。でも、そこが憎めないのよ。私も、母親になったみたいな気持ちで坊っちゃんのお世話をさせて頂いてたわ」

「フフフッ。多恵さん、純也さんが可愛くて仕方なかったんですね」

 愛美は微笑ましくその話を聞いていた。これが実の母親だったら、なんという親バカだろうか。

(なんか、今でもここに純也さんがいそうな感じがする。それも、無邪気な子供時代の)

 ――泥んこになるまで遊びまわって、帰ってきたら多恵さんに「お腹すいたー! おやつま~だ~?」とねだっている純也少年の姿が、愛美の脳裏(のうり)に浮かんだ。

「中学を卒業されてからは、ここにはあまり来られなくなったんだけど。最近はきっと、お仕事がお忙しいのかしらねえ」

「そうですか……。でも、連絡は来るんでしょう?」

 彼はきっと、情に厚い人のはず。昔お世話になった恩人に連絡をしないわけがない。

「ええ。毎年、夏になるとお電話を下さるわよ。でも今年はまだだわね」

「そうなんですか。――多恵さん、色々教えて下さってありがとうございました」

 これだけ話を聞かせてもらえれば、愛美は満足だ。彼の幼い頃を知ったおかげで、彼のことをもっと好きになれる気がしたから。

「いえいえ、どういたしまして。――ねえ愛美ちゃん、もしかして坊っちゃんに恋してるんじゃないの?」

「……はい。でも、どうして分かったんですか?」

「フフッ。だって、私もオンナだもの。この年齢(トシ)になってもね」

 多恵さんにも、愛美の彼への恋心はバレバレだったらしい。自分では、うまく隠していたつもりだったのだけれど。

(は~~~~、もうヤダヤダ! なんでこんなにダダ漏れなの!?)

 初恋ってこんなものだろうか? 「好き」という気持ちがうまく隠せなくて、思いっきり顔に出ているとか。