「愛美ちゃん、食器棚はコレ。スプーンは左の引き出し、フォークは真ん中ね」

「はい。――えっと、平川佳織さん……ですよね? 天野さんとお付き合いしてるっていう」

 人数分のカトラリーを取り出しながら、愛美がそれとなく訊いてみると。

「……んもう。あの人ってば、もう愛美ちゃんに喋っちゃったんだ?」

 佳織さんは、顔を真っ赤に染めてそう言った。どうやら、天野さんの話は本当らしい。

「あたしと彼の関係は、ご主人とおかみさんには内緒なの。……まあ、気づいてらっしゃるかもしれないけど。彼はあたしより三つ年上なんだけど、農業に対する姿勢とか、そういうところがステキだなって思ったんだ」

「それで恋しちゃったんですね。天野さんも、佳織さんも」

 佳織さんは照れながらも、「うん」と頷いた。

「恋する気持ちだけは、誰にも止められないからね。――愛美ちゃんは、好きな人いるの?」

「……はい。実は、純也さんなんです。ここの元の持ち主だった」

「えっ!? そうなの? うーん、そっか。頑張ってね」

「はいっ!」

 まさかこの場で、ガールズトークが盛り上がるとは。愛美は佳織さんのことを、この短時間で身近に感じられるようになった。

「――さて、早く夕飯の支度終えないと。テーブルでウチの腹ペコどもが騒ぎ出しちゃうね」

「そうですね。じゃあサラダとコレ、お盆に載せて運びます」

「うん、お願い」

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 ――夕食のメニューは夏野菜たっぷりのカレーライスとサラダ、デザートにはこの農園の果樹園で採れたフルーツ入りのヨーグルト。
 そして、農業が初体験の愛美のおかしな質問によって、とても賑やかで楽しい食卓となった。 

「――多恵さん。昔の純也さんのお話、もっと聞かせてもらえませんか?」

 多恵さんと佳織さんと一緒に、食後の洗いものの片付けを手伝いながら、愛美は多恵さんに頼んでみた。