ぶっきらぼうに言い置いて、愛美の部屋を出ていく天野さん。

(もしかして、照れてる……?)

 愛美は彼の態度の理由をそう推測した。見かけによらず、シャイな青年なのかもしれない。

「――さて、と。荷物片づける前に」

 愛美はスポーツバッグから、レターパッドとペンケースを取り出し、部屋の窓際にあるアンティークの机に向かった。

「あしながおじさんに、『無事に着きました』って報告しよう。あと、さっきのことも確かめないとね」

 レターパッドの表紙をめくり、そのページにペンを走らせる。

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『拝啓、あしながおじさん。

 お元気ですか? わたしは今日も元気です。
 ついさっき、長野県の千藤農園に着きました。まだ荷(ほど)きもしてないんですけど、ここに無事に着いたことをおじさまに知らせたくて。
 ここは自然がいっぱいの場所で、昼間の今でも冷房なしですごく涼しいです。横浜の暑さがウソみたい。同じ日本の中とは思えません。
 ここで三年働いてる天野さんのお話によると、中心部は観光地で、スキー場に近いので冬はスキー客で賑わうそうです。でも、夏場はホタルの見物客くらいしか来ないみたいです。あと、星空もキレイなんだそうです。
 すごくロマンチックでしょう? わたしもいつか、純也さんと一緒にホタルが見られたらいいな……。
 あ、そうそう。〝純也さん〟で思い出しました。わたし、おじさまにお訊きしたいことがあって。
 おじさまはどうやって、この農園のことをお知りになったんですか? もしくは、秘書さんかもしれませんけど。
 どうして知りたいかというと、こういうことなんです。
 この農園の土地と建物は元々、辺唐院グループの持ち物で、純也さんの別荘だったそうです。