「このお嬢さんが、今日から一ヶ月ウチで面倒を見ることになった相川愛美ちゃんだ。天野君には、この子の荷物を二階の部屋まで運ぶのを手伝ってやってほしいんだ」

「相川愛美です。よろしくお願いします」

 天野という青年は、愛美から見るとちょっと取っつきにくいタイプの人みたいに見えるけれど。

「よろしく。――運ぶのコレだけ? じゃ、行くべ」

 はにかんだ顔でペコリと愛美に会釈すると、段ボール箱を三つともヒョイッと抱えて階段を上っていく。
 愛美もスーツケースと折りたたんだスチール製のキャリーだけを持って、彼の後をついて行った。

「――天野さんって、いつからここで働いてらっしゃるんですか?」

「んー、もう三年になるかな。親父さんもおかみさんもいい人でさ、居心地いいんだよな。ちなみにオレ、下の名前は〝恵介(けいすけ)ってんだ」

 ちなみに、年齢は二十三歳だという。

「ここが、愛美ちゃんの部屋だ。眺めは最高だし、ここは何て言っても星空がキレイなんだ」

「へえ……。わ、ホントだ! すごくいい眺め」

 窓から見渡せる限り山・山・山。とにかく自然が多い。それに、冷房もついていないのに涼しい。
 山梨の山間部で育った愛美には、確かに居心地がよさそうな環境である。

「もうちょっと中心部まで行けば観光地で、店もいっぱいあるし。冬はスキー客で(にぎ)わうんだけど、夏場はホタルを見に来る人くらいかな」

「ホタル? 近くで見られるんですか? ロマンチック……」

「うん。オレも夏になったら、よく彼女と見に行くんだ」

「彼女……いらっしゃるんですか?」

 愛美がギョッとしたのに気づいた天野さんは、ちょっと気まずそうにプイっと横を向いた。

「あー……、うん。ここで一緒に働いてる、平川(ひらかわ)佳織(かおり)っていうコ。――まあいいじゃん、その話は。荷物置いとくから、適当に片付けて。じゃ、オレはまだ畑での仕事残ってっから」

「あ、はい。ありがとうございました」