愛美は首を傾げる。〝あしながおじさん〟――つまり田中太郎氏と純也は知り合いということだろうか? もしくは、秘書の久留島栄吉氏と。

(……あれ? ちょっと待って。確か『あしながおじさん』では――)

 あの小説では、〝あしながおじさん〟(イコール)ジュリアの叔父ジャーヴィスだったはず。でも、まさか純也が〝あしながおじさん〟だなんて! あまりにもありきたりな展開だ。「あり得ない」と、愛美の頭の中でもう一人の愛美が言っているような気がする。

(……まあいいや。おじさまに直接手紙で確かめよう)

「――愛美ちゃん、荷物を部屋まで運ぼう。車から降ろすから、手伝っておくれ」

 考えごとをしていると、千藤さんが愛美を呼んだ。

「はいっ! わたしやりますっ!」

 愛美の荷物なのだから、千藤さんに手伝ってもらうのはいいとしても、愛美が彼を手伝うのはお(かど)違いだ。

「ヨイショっと。――先に荷物だけ送っといてもらってもよかったんだけどね」

「ありがとうございます。すみません。なんか、先に荷物だけ届いてもご迷惑かな、と思ったんで。……っていうか、そもそも思いつかなくて」

 本が詰め込まれた重い箱を持ち上げた千藤さんを手伝いながら、愛美は「その手があったか」と目からウロコだった。

「いやぁ、迷惑なんてとんでもない。本人が後から来るんだったら同じことだよ。……や、ありがとうね」

 多恵さんにも手伝ってもらい、三人でどうにか全ての荷物を降ろし終えると、次は二階にあるという愛美の部屋にこれらを運ぶという大仕事が。
 そこで、千藤さんは畑で何やら仕事をしている若い男性に呼びかけた。

「おーーい、天野(あまの)君! ちょっと来てくれ!」

「――はい、何すか?」

 呼ばれてやって来たのは、よく日に焼けた二十代前半くらいのツナギ姿の男性。彼が〝天野〟さんだろう。